エコショート 第1話「おじいさんの好きな本」
武彦がおじいさんの書斎に入るのはこれで二度目だった。
前に入ったときは、おじいさんがニコニコ笑って出迎えてくれた。
中には大きな柱時計と、たくさんの本棚があった。
だがその時、机の上に置かれた赤い表紙の本を見つけ、覗こうとしたら、
急におじいさんが怖い顔をして、首を横に振ったのだ。
後で、おばあさんに聞いたら、
「あれは、おじいさんが、子供のころ一番好きだった本なのよ。おかしいわね。」
と小首を傾げた。
その真相を確かめようと、武彦はこっそりと書斎に入ったのだった。
そして、そーっと、机の上の赤い本を開いてみた。
それは、使い古された、何の変哲もない動物図鑑だった。
(何でこの本を見せてくれなかったのかな?)と思いながら、武彦が本を見ていると…、
いつの間にか、おじいさんがやって来て、後ろからそっと、覗き込んでいた。
「シロナガスクジラはのう、三十メートル、百七十トンもあったんだ。」
「うそ、そんな大きな動物、歩けないよ。」
「パンダは、白と黒のコントラストがおもしろくてな。」
「そんな漫画みたいな生き物いたらおかしいよ。」
武彦は、変なことを言うおじいさんだと思った。おじいさんは、それでも話し続けた。
でも、おじいさんの瞳には、涙が光っていた。ライオン、シマウマ、ぞう、キリン…。
今は二十一世紀後半、もう、この図鑑に載っている動物はほとんど滅びて、地球上から消えていた。
「チーターは、足が速くてな、時速百二十キロ以上…。」
「またまた、そんなうそばっかり…。」
おじいさんは、それでも話を続けるのだった。