ハピエコ・オリジナル小説

落語「ヒーロー戦隊」前編

毎度ばかばかしい話をおつきあいねがいます。

ここは、映画の制作会社パワークリエイション。
まあ、子ども向けの変身ものや、怪獣映画などを作っていましてね、ここのところヒット作がなく、赤字続き。
まあこの会社でつくる映画ってのが、ぱっとしないし、どこかで見たことのあるようなものばっかり。
影では、パワークリエイションを略して「パクリ」などといわれております。

ところが、今日、社長がやけにうれしそうな顔してやってきました。
ひまそうな監督がその様子に驚きましてね。。
「社長、どうしたんすか。赤字続きで、ついに頭にきちゃいましたか。」
「うぉほん。ばかなことを言いなさい。さ、監督、みんなを集めて。いや、ついにチャンスが来たんだよ。」

監督に言われて、少ない社員が、いったい何事かと集まってきましてね。
「うぉほん、実はかねてより、交渉していたテレビ夕日との話がまとまった。
30分番組のヒーロー戦隊ものだ。スポンサーも大手のオモチャ会社だぞ。どうかな諸君。」

さあ、みんなよろこぶ、よろこぶ!
よろこびすぎて、とんだり、だきついたり、変身ポーズをとるやつまででてきちゃったりして。
「ついては、今度の企画会議に、どんなヒーローにしたらよいのかみんなで、アイデアを持ち寄ってほしい。
今までにない新しいヒーロー戦隊だ。社運がかかっているんだ。頼むぞ。」

さあ、やせても枯れても、特撮好きの社員たちです。
みんなああでもない、こうでもないと楽しそうに盛り上がってまいりました。
その中から3人が選ばれ、いよいよ企画会議の日となりました。
社長と監督の前に、1人目が出てまいります。
「うぉほん、それでは、新しい魅力的な案を頼むよ。」
「はいはい、では1人目、行ってみよう。倉井 恭介君。」
「はい。いいですか、ヒーローというのは、その背中につらい過去や宿命を背負って、生き抜いていくもの。
それを乗り切ってこそ、感動が生まれるのです。」
「いいねえ、それでそのヒーロー戦隊の名前は?」
「哀愁戦隊、アワレンジャー。」
「アワレ?あばれじゃなくて…。なんか、弱そうな名前だね。ま、いいか設定を教えてよ。」
「はい。人生に疲れ、過去に追われ、富士の樹海にやってきた男がそこで知り合ったのは、ほかに行き場のない哀れな仲間だった。」
「ええ!富士の樹海に人生に疲れたやつが何しにいったの?それって、危なくない?子ども番組だよ。」
「リーダーのバブルレッドはコンピュータ会社の社長。
だが、ITバブルがはじけ、信頼していた部下が会社の金を持ち逃げ、 妻と子どもに捨てられ、車にぶつけられ、犬にかみつかれ、借金から逃げ回る毎日。 銃の名手の顔色ブルーは不治の病におかされ、指が振るえ、なかなか銃が撃てない。」
「そんなんで戦えるのか?」
「そのほかにも、いつも追われて逃げ回る夜逃げブラック、事故で記憶をなくした記憶ホワイト、 パチンコ好きで家族に捨てられたパチンコシルバーなどがいて…。」
「そんなあわれなやつらばかりで、どうやって戦うんだよ。」
「ドラマでは、毎回必ず怪人に攻撃をはねかえされ、ぼこぼこにされ、 ばかにされ、ののしられ、あしげにされ、土にまみれて、もがき苦しむ…」
「弱すぎる、弱すぎるよ。」
「ところが、ところがです、
怪人に一撃のダメージも与えられないでいると、怪人がこう言うのです。
負け犬にはなりたくないねえ、あわれだな。
その最後のことばに、やっと彼らの反撃が始まるのです。」
「めんどうだね、こりゃ。」
「俺たちは負け犬じゃあねえ!
バブルレッドはコンピュータのような分析力で敵の弱点を分析。
顔色ブルーのショットガンが冴え渡り、夜逃げブラックのダッシュ攻撃、 記憶ホワイトの隠された能力がよみがえり、パチンコシルバーの銀玉が勝利をつかむ。」
「そんな能力があるのなら、最初から使えよ。どうですか社長!」
「うぉほん、ううむ。おもしろそうだが、子ども番組にしてはちと重過ぎるなぁ。
もっと家族みんなで見られるようなものがないかね。」
「はいはい、じゃあ、次。2人目の団 嵐次郎君。はい、がんばっていこう。」
「はい、私めは、戦隊の中に、家族と社会問題を取り入れ、家族の絆と社会を明るくする戦隊を企画しました。」
「うぉ、これはいいかもしれない。期待してるよ。で、なんて名前なの?」
「伝説戦隊、ボケンジャー。」
「ボケって?冒険じゃないの…。まいいや。設定を教えてよ。」
「宇宙からやってきた悪の軍団の前に、地球防衛軍はまったく歯が立たず、 最大の危機がせまっていた。少女モモカは、自分のおじいちゃんが昔最強の戦士だったことを思い出し、 田舎に行っておじいちゃんに頼み、ここに伝説の戦士がそろうのです。」
「で、どこが社会問題なの?」
「普通伝説の戦士と出会うには古代の遺跡や、地下世界、異次元や宇宙空間に探しに行くのですが、今度は違います。
それぞれの伝説の戦士は、田舎、老人ホーム、介護マンション、 病院などにいて、社会を救うために、力を生かす。つまり老人問題ですよ。」
「でも、そんなのが強いの?
怪人と戦ってボロボロにされたら、老人虐待になりかねないよ。
それに老人ばかりじゃ、お色気もないしなあ。」
「おまかせください。伝説の力は健在。
よっこらしょと変身したあと、どんな敵もやっつける無敵の力をとりもどします。
それに、寝たきりになったピンクのかわりに、孫のモモカが加わります。」
「孫娘か、いいねえ。でも無敵の強さじゃドラマにならないよ。」
「もちろん弱点もかんがえてあります。
リーダーのものわすレッドは、最強なのですが、物忘れがひどく、違う相手や味方を攻撃したりします。」
「あぶない老人だなあ。」
「つい同じことを繰り返してしまうくりかえシルバーは、一度降参した相手をつい完全にたたきのめしてしまう。」
「そりゃあ、敵がかわいそうだ。」
「頭がツルツルのズラグリーンは、カツラがとれるとどこかに逃げ出し、 知恵袋のなんでもシルバーは頭は抜群によいが、アレとアレをナニしてみたいなことばかり言って、なかなか相手に伝わらない。」
「なるほど老人の世界だな。
でもピンクは、若いんだろ。どうするんだい弱点は?」
「平気です、彼女はもともと天然ですから。天然ピンクなんです。」
「なんかとんでもないドラマになりそうだなあ。どうです社長。」
「うぉほん。楽しそうなんだが、やはり子どもの番組に老人ばかりというのはねえ。」
「まだほかにも、あります。日照りや洪水、害虫などの怪人を操る、 悪の温暖化軍団と戦う、農業戦隊、田んぼレンジャーはどうですか?」
「地味だねえ、そりゃあ。」
「謎の組織の傾向と大作をさぐって戦う受験戦隊マナブンジャーはどうですか。 赤点レッドや徹夜ブラック、白紙ホワイトが出て、毎回格言や英会話コーナーもあります。」
「そりゃあ、ちょっと真面目すぎるんじゃないの。」
「まだまだあります。グルメブームにのって、ジャパン、フレンチ、イタリアン、チャイナ、トルコの五人の戦士が腕を競い、 怪人を料理して食べちゃう、グルメ戦隊イタダキマスクというのもありますが…。」
「怪人を食べちゃうの?だめだめ、困ったねえ、社長、こいつらに、ヒーロー戦隊のなんたるかをおしえてやってもらえませんかねえ。」

[後編に続く]