ハピエコ・オリジナル小説

落語「ヒーロー戦隊」後編

[前編はこちら]

「うむ、いいじゃろう。
まず、ヒーロー戦隊には魅力的で個性的な悪の軍団も必要じゃよ。
特にハンサムな悪の貴公子なんかが出ると、母親層に大うけじゃ。
番組のスタートから視聴率もとれるぞ。さらにいうと、。、謎の戦士がつきものじゃ。」
「そうそう、謎の戦士だよ。正体不明で、めっちゃ強いんですよね。」
「それが、ライバルであったり、死に別れた兄や父親だったりする。
宿命の相手になったり、多くは6人目の戦士になり、仲間に加わる。これが中盤のドラマを盛り上げる。」
「そうそう、正体がわかり、感動の再会、ころっと寝返って、味方になるんですよね。」
「それから、シリーズを通じて、一つの謎を追い詰めることが必要じゃ。
これが、謎解きやどんでん返しを呼んでがぜん盛り上がるのだ。
宝を探したり、暗号を解いたり、行方不明の人間を探したりする。これで、最終回に近づくほどに視聴率アップだ。」
「そうなんですよね、
最初から追い求めていた謎が解けて、ハラハラドキドキ、大どんでん返しがあるんですよね。」
「あと忘れちゃいけないのが、スポンサーとの関係じゃ。
スポンサーの製品がよく売れるような設定やキャラクターを出さねばいかんなあ。」
「さすが社長、わかったら、アイデアの練り直しだ。がんばれよ。」

さすが社長は、視聴率まで考えていると、みんな感心し、一生懸命練り直しましたね。

次の日に、3人目が、ついに発表の時間になりましてね。
「うぉほん、それでは頼むよ。」
「はいはい、今日こそ決めていこう!戸井 礼二君だったね。」
「はい、まず、悪の軍団ですが、すべての人から夢をうばって支配する、イケメンのダークアラシ五人衆が、華麗に登場。
これで母親のハートをガッチリキャッチ!
そして、謎の戦士、虹の騎士が登場、のちに戦隊のレインボーとなります。」
「ほうほう、押さえてるね、いいよ、いいよ。それでヒーローの方は?」
「人々に夢を与えるオモチャの戦士です。
オモチャの湖という会社の地下に秘密基地を持っています。
ダークアラシによって、夢を失い、感情を失った人物にオモチャと魂のレクチャーを行い、豊かな心を呼びさまします。」
「オモチャのレクチャー?」
「ミニカー、ロボット、着せ替え人形、その人物が豊かな心を持っていた子どもの頃のなつかしいオモチャが画面に登場します。
そしてその楽しかった頃の思い出が再現され、オモチャの歴史が語られるのです。そこで豊かな心が復活するのです。」
「胸に、ジーンと来るねえ。いいねえ。」
「さらに、最終回では、行方不明だった主人公の兄がダークアラシだと判明します。
思い出のオモチャとレクチャーにより心を取り戻し、感動の再会です。」
「いいねえ、スポンサー対策は?」
「お任せください。
今度のスポンサーはオモチャ会社ですから、魂のオモチャレクチャーのたびに、スポンサーの製品を出します。
さらに見た目にも楽しいオモチャのレーザーを使い、子どもに人気のT・レックスの恐竜型巨大ロボットや、 大人に人気のレトロな巨大ロボットが出てきて敵をぶちのめします。」
「いや、これはいけるかも、どうです、社長。」
そこで、監督と社長は企画書をよく読んでしばらく考えていました。
「うぉほん。なかなかよさそうだが、ゴーサインはだせないな。」
「なんでですか、社長の言うとおりに練り直したんですよ。」
「ううむ、それでは、戦隊の名前を声に出して言ってみなさい。」
「は?オモチャ戦隊 トイレンジャーですが…。」
すると、監督が企画書を見ながら叫びました。
「秘密基地のある会社が、オモチャの湖、トイレイクだよなあ。」
「はい、トイレイクですが。」
「使う武器は、トイレーザー、夢を失った人にトイレクチャーを行い、六人目の戦士がトイレインボー、 巨大なトイ・レックスとトイレトロボが暴れまわる。」
「あれ、なんかまずかったですか?、」
「だからさあ、それじゃあ、トイレの戦隊が、トイレイクとトイレがザーとなったりして トイレクチャーイことになりトイレでインボーを企てるみたいなことになって最後は、 トイレックサッとなってトイレが古臭くなったみたいな…。」
「あちゃあ、そうかー、夢中になりすぎて気がつかなかった…?」

社長が最後に静かに言いました。
「うぉほん、残念だが、この企画、トイレだけに水に流すかな。」

おあとがよろしいようで。