落語「テレビショッピング」其の一
[テレビショッピング其の二 はこちら]
[テレビショッピング其の三 はこちら]
毎度ばかばかしいお笑いを一席。
ここは、映画制作会社パワークリエイション、略してパクリなどと呼ばれている会社ですな。
ここのところ、制作したヒーローものがヒットしてちょっと勢いにのっております。
今日も、社長が監督や社員を集め、話を始めております。
「うぉほん。みんなの努力により、『反省戦隊ゴメンジャー』が大ヒットした。」
するってえと、監督が誇らしげに、
「いやあ、ゴメンジャーは当たりましたね。
変身ポーズしながら、ゴメンと叫ぶのが大流行しました。
友達にあってもゴメン、親にあってもゴメン、犬にもゴメン、世間にもゴメン、
敵の怪人にもゴメン、負けてもゴメン、勝ってもゴメン、生きていてゴメン、本当によく流行ったなあ。」
「うぉほん。続く『電設戦隊シビレンジャー』にあたることになり、新しい企画が動き出した。」
「電設戦隊って、電気設備の戦隊ですよね。確か、隊員全員が電気関係の仕事をしているという…。」
「うぉほん。視聴率がよかったので、今度はオモチャのメーカーに加え、
大手の家電メーカーがスポンサーについたんじゃ。その関係で電設戦隊シビレンジャーに決まったわけでのう。」
「家電メーカー?それで電気でシビレンジャーってわけですか。」
「うぉほん。そこで、番組の最後に斬新な企画として、テレビショッピングをやることになったわけじゃ」。」
「テレビショッピング?特撮映画専門のうちでやるんですか?」
「うぉほん。うまくいけば売り上げの何パーセントかが、うちにもはいるおいしい仕事なんじゃよ。
商品はスポンサーのオモチャと家電製品ならなんでもよい。スペシャル商品や特別企画商品も出せるぞ。みんながんばるのじゃ。」
「がんばります。みんな、いいか!エイ、エイ、オー!」
みんなもりあがっています。なかにはエイエイオーと言いながら変身ポーズをとる社員や、
エイエイオーしてゴメンなどと言ってるやつもいたりして…。
みんなで、売り出す商品と番組の内容を出し合い、競い合って決めることとなりました。
みんなの前に社長と監督が並んで第一回の企画会議です。
「はいはい、まだまだわかんないことも多いと思うけど、失敗は成功の元、がんばって新しい分野を開拓していこうか、ヨーイ、スタート!」
…ってえと、最初の社員が、ゴメンジャーのソフビ人形を持って、大声で叫びます。
「はあい、皆様こんにちはー!テレビショッピングの時間でえす。」
「江利糸蔵(えり・いとぞう)君だね。いやあ、元気があっていいねえ。」
「まずは、この映像を見てください。」
すると脱サラの山田さん一家のドキュメンタリー映像となります。
コンピュータ会社のエリート社員だった山田さんは、あまりの忙しさに体を壊し、会社を退職します。
それを機に小さい頃からの夢を妻に打ち明けます。
「…おれ、本当は、おいしいハンバーグを出す、洋食屋さんになりたかったんだ…。」
妻に反対されるかと思っていたら妻も
「あなたと同じ夢を見させて」
と協力してくれたのでした。
本物の味を求めて、日本中をグルメ旅行、安くて上質な和牛を探し当て、何回も通いつめ、感動の契約。
寝る暇も惜しんで新しいメニューづくり、そして、開店、押しかける客、でもまた体を壊し、妻が一人で店をきりもり。
そんな苦難を乗り越えて、山田さんは、今日も最高のハンバーグを作り続けています。
お客さんの笑顔に囲まれて…。でも、何度も訪れた危機、つらいとき、苦しいときを、山田さんはどうやって乗り越えてきたのでしょう。
実は山田さんには元気の素があったのです。
…仕事が終わり、疲れて帰ってきた山田さんが、自分の部屋でコーヒーを飲んでいます。
その後ろにヒーロー戦隊のフィギュアが並んでいます。
「行くぞ、みんな!ズギューン、ババーン。正義派かつ。よーし、俺もがんばるぞ。」
そう、彼の心の支えは、ヒーロー戦隊だったのです。
どんな試練も、強敵も、仲間と力を合わせ、乗り越えていくその姿に励まされていたのです。
「今日、皆様に紹介するのは、山田さんの心の支えになっていたゴメンジャーの人形です。
見てください。レッド、ブルー、グリーン、イエロー、ピンクとカラーバリエーションも豊富にそろっております。
お子様のオモチャに、お父様のフィギュアコレクションに、お母様のバックにぶらさげて楽しいファッションアイテムに、
おじいさま、おばあさまは、お孫さんの写真の隣や、仏壇にかざってはいかがですか。
本革を思わせる光沢、関節を動かしてファイティングポーズ、胸が高鳴ります。そして、手のひらに乗せるととても軽〜い、
いやあ、すばらしい、まさに一家に1セット、親から子に引き継ぎたい、珠玉の逸品ですね。
今日はこのすばらしい、ゴメンジャーの特別セットが、限定価格1498円、すぐにお電話をお願いします。」
監督が困った顔をして、社長に聞きます。
「ううむ、これは…。社長、どうですか。」
「うぉほん。元気があっていいが、ちとほめすぎだな。なんでもほめればいいってもんじゃないからね。
これがあるとこんなに便利だとか、お悩み解決だとか、意外な活用法なんかがあるといいんじゃが。」
「はいはーい、わかったかな。じゃあ次いこうか。今度こそ、よろしく頼むよ。」
「はい、工夫してみました。皆様、お元気ですか、テレビショッピングの時間です。」
「お、アイデアマンの天童上太郎君だね。今度は落ち着いた物腰だ、なかなかいいんじゃないか。」
「さて、大画面テレビが流行っています。
ですが、最近のテレビはいくら薄型だといっても、
置く場所がないというご家庭も多いのではないでしょうか。
そこで今日ご紹介する、置き場所を選ばない画期的大画面テレビでございます。
その名も天井テレビピタット100です。紙のように薄い新型液晶画面、コードをつなぐ必要のない無線システムを搭載。
のりで天井に貼りつけるだけで、どこの部屋でも大画面ルームに変身します。
うちは蛍光灯がついていて貼れないよというお宅も心配いりません。蛍光灯を取っちゃってください。
画面を光らせれば、電気代わりに使えます。のりで貼るだけ。見上げれば大画面。
家族全員でごろ寝をして見るのもおすすめ。寝室にはもってこいです。
もしも、地震がおきても平気、のりがとれてもヒラヒラ落ちてくるだけ。ケガはしません。
今なら、上を見すぎて首が痛くなった時の塗り薬もセットで、99800円、すぐにお電話をお願いします。」
「あれ、スポンサーの商品にそんな製品あったっけ。」
「新製品の超薄型テレビの新しい使い方を提案したんですが…。」
「無理がないか? 聞いてるだけで、なんか首が痛くなってきたよ。どうしますか社長。」
「うぉほん。やはりまだまだ努力は認めるが難しいな。
今度の社員は落ち着いて説明できたが、商品を欲しいという気になれない。
ううむ、こんなこともあろうかとある人に来てもらっている。
テレビショッピング評論家の三原則男さんだ。よろしくおねがいします。」
すると、後ろのドアの影から、一人の男が入ってきた。
「フフフ、君たちのプレゼンはすべてここで見させてもらったよ。
社長と私は古い友達でね、なんとか力になりたくて、やってきたんだ。
まずはテレビショッピングの三原則からじゃ。」
「へえ、テレビショッピングにも三原則なんてあるんだ。」
「まずは商品の三原則からじゃ。
一に目きき、二に狙い、三に値札と組み合わせというのが大事なのじゃ。
これは、魅力ある品物を発見し、あるいは掘り起し、だれに売るのか狙いをしぼり、
その場合どんな商品構成でいくらで売ればいいのかということじゃ。
だがみんなに大切なのは、売りの三原則じゃ。」
「売りの三原則ですか?」
「いいかな、次の三つを頭に叩き込むのじゃ。ほめて、納得、役に立つ。まずはほめる。
その商品がいかに素敵で、かわいくて、あるいはおいしいか、すばらしい機能を持っているのかを、
見ている人に伝えるのじゃ。そして、納得。その製品のすばらしさや新機能を説明し、
安さの秘密などを伝えて、納得させる。さらに、この商品があれば、手軽においしいものが食べられるとか、
日ごろの悩みが解決するとか、役に立つことを最後につたえて問題解決するのじゃ。」
「なるほどねえ、ほめて、納得、役に立つ。ってえと、今の二人はどうだったんですか。」
「最初の方はほめてばかりで、納得と役に立つが足りない。二番めは逆にほめがたりないな。
でもほめるときは、テンションをあげて明るく、納得させるときはまじめに相手を説得するように落ち着いてやらなくてはならない。
そこが難しいんじゃ。明るくほめながら、まじめに説明するのはなかなか一度にできないから、
ほめ役と説明役に分かれることが多い。あと問題解決のデモンストレーション役がいれば、
よくあるテレビショッピングの番組になるわけじゃ。」
「なあるほど。ほめるのと説明はやり方が反対なんですね。奥が深いねえ。」
「やり方によっては反対になってしまう要素はまだほかにもあるぞ。
たとえば、限定とバリエーション。ここだけにしかない、この期間だけしかない、
この個数だけしかない限定品は魅力的だが、反対に、カラーが豊富、各種サイズ取り揃え、
機能や用途別に選べるとか、値段もさまざまというのも魅力的じゃ。」
「限定か、バリエーションか。どちらもほしいねえ。」
「まだあるぞ。時間の三原則じゃ。今こそ、いつでも、今すぐにというのもある。
季節や決算などをアピールして、今こそ買いましょう。買うのは、24時間いつでも受け付けますよ、
でも今すぐ買うとこんなにお得っていうわけじゃ。24時間受け付けますと言っておきながら、
時間制限など、今すぐ買うととってもお得なんてのは、明らかに正反対じゃな。」
するとそこまで黙っていた社長が口を開いた。
「そうだ、三原先生、お客が迷っている時の決断三原則を頼むよ。」
「こりゃまた、三原則が好きな先生だねえ。さすが名前も三原則男だ。」
「ほいほい。手軽に、オマケ、キャンペーンじゃよ。もちろん商品の三原則の通り、
商品に魅力があり、誰に売るのかきちんと狙って、安ければ必ず売れる。
でもそれ以外に迷っている人を決断させるのに必要なのじゃ。
まずはお手軽、電話やネットで簡単に注文、配達料、設置料、ローンの金利なんかが無料、
下取りなんていうのがそうじゃ。そしておまけ、あると便利な小物や関連商品がついてくるとうれしいのう。
高枝切りばさみや血圧計、懐中電灯など、実用品をおまけにつける手もある。そしてキャンペーン、
今なら安い、今ならお得、今ならもう一つついてくるなんてのがそうじゃな。」
ふむふむ、これは役に立つと、みんなメモを取り、耳を傾けます。
「まだまだあるんじゃが、最後に、しゃべり方を一つ教えておこう。」
「大きい声でハッキリと、ですか。」
「ははは、ちがうよ。例えば、最後に価格を言う時、大きな声で、自信たっぷりに言うかね?
それとも間をおいてからもったいつけていうかね? それとも、困った顔をしてつぶやくように言うかね?
それぞれ、自信の価格、努力の価格、ギリギリノ価格だ。その時の商品と、しゃべる人のキャラによって使い分けるんじゃ。
例えば、元気なプレゼンターが、新機能のデジタル家電におまけをたくさんつけて、
この値段で勝負という時には、大きな声で自信の価格宣言が似合う。99800円!ってね。思わず納得させられるわけじゃ。
逆に、ダイアモンドのような価値のしっかりしたものを専門家が安さの限界に挑戦する時は、つぶやくように言うわけじゃ。
…99800円…。ああ、信頼できる人が、本当にぎりぎりのところまで悩んで、価格を下げたんだなって見ている人を感動させる。
そして、感動が売り上げにつながるのじゃ。どうかな、最後は人間性の勝負なんだな。みんながんばれよ。」
「ありがとうございました。」
…ってんでみんな熱い思いでまた番組制作に取り組んだわけです。
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