ハピエコ・オリジナル小説

落語「テレビショッピング」其の三

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と、言っている間にキッチンのセットが用意され、三人の外国人風の男女が入ってきました。
低音で自信たっぷりのジョージ、オーバーアクションのマイケル、異常に声の高いスーザンです。
最初から、マイケルのオーバーアクション炸裂です。
「おい、ジョージ、マニアの俺をうならせるものを見せてくれるって、ここはキッチンじゃないか。ホワイ?なぜなんだ。」
「あーら、違うのよ。ジョージは、主婦の便利グッズを紹介してくれるのよね。」
「ははは、マイケルもスーザンも、そんなにあせるなよ。まずは、マイケル、 これを見てくれ。おまえ、ゴメンジャーのマニアだったな。ほらこれを見な。」
ってえとジョージは、椅子の影にあったあるものを取り出す。マイケル驚愕。
「な、なんてこった。アンビリーバボー!」
「どうだい。テレビの特撮に使われてるのとほとんど違わないだろう。ゴメンイエローの、ゴメンキャノンだ。」
「すげー、これいくらだよ。」
「特別価格、税込み、配送料無料で、89500円だ。」
「えー、高い。いくらなんでも高すぎるよ。ジョージ、なんとかならないのかい。」
「ちょっと待ってよ。ジョージ、ひどいじゃない。こんなオタクなものに、出費するお金は、我が家に一円もないわ。」
「ふふふ、でもこのキャノン、実は、高機能サイクロン掃除機なんだ。」
そういって、ボタンを押すと、キャノンの先から長いホースがニューッと伸びて出てくる。そしておもむろに、床の掃除を始める。
「どうだい、すごいだろ。お金を出す気になったかい。」
「ううん、便利だけど、ちょっとまだ高いかな。」
「ちょっと、マイケル。あたしが高機能サイクロンが、ほしいって知ってるくせに。ねえ、ジョージ、もう少し安くならない?」
「ふふ、そういうと思っていたよ。これをみて驚くな。」
ジョージはいろいろな品物の乗ったテーブルを持ってくる。
「す、すごい、これ全部、ゴメンジャーの武器ジャン。」
「それだけじゃないぞ。このピンクのハリケーンガンはセンサー付きの扇風機になる。 ブルーのエネルギータンクは花粉やウイルスもすべて取り去る空気清浄器、 ブラックのハンドレーザーはラジオ付強力ライト、レッドのクラッシュハンマーは、回転足つぼマッサージ機になるのだ。 これも全部つけるぞ。」
「これ、みんなオモチャじゃないのね。高機能だし。この強力ライトなんか災害時に役立ちそうね。」
「回転足つぼマッサージ機、ちょうどほしかったぜ、ベイビー。」
「しかも、…。」
「まだあるのかい?」
「敵をやっつける時、全部合体させてゴメンバスターキャノンってのをぶっぱなすだろう。」
「ええ?もしかして!」
「行くぞ、合体、サイクロンキャノン!カモン、ゴメンジャー!」
するってえと、突然変身姿のゴメンジャーがばらばらと入場して、それぞれの武器を取り、かっこよくポーズを決める。
「みんな、武器を合体だ。行くぞ、ファイナルサイクロンキャノンだ。強すぎてゴメン!」
すると5つの武器が合体し、デラックスなサイクロン掃除機に変身だ。合体武器を持って、 ゴメンジャーが決めのポーズ!マイケルが飛び上がって喜ぶ。スーザンも興奮している。
「これで、回転ローラーとよごれセンサーのついたサイクロン掃除機だ。掃除しながら空気もきれいになり、 強力ライトで、ベッドの下の暗いところもピカピカだ。ラジオも聞けるし、 扇風機で涼しく仕事ができるしね。どうだ、買う気になったかい。」
「マーベラス!こんなグレートな掃除機見たことないわ。」
するってえと、5人のゴメンジャーは、武器を置いて、かっこよく去って行った。
「また会おう。さらばだ。」
「うう、ジョージ、すごい、すごすぎるぜ。合体までできるなんて。高いけど、どうしようかな。」
「これを買ったら、息子さん喜ぶぞ。掃除も一緒にするようになるかもな。」
「そうね、子どもの喜ぶ顔がうかんでくるわ。」
「どうしようかなあ…。」
「ええい、優柔不断なやつめ、これでどうじゃ。」
するとゴメンジャーの絵がある炊飯ジャーのようなものを出す。
「これはなんなの?」 「キッチン戦隊ゴメンジャーだ。ウドン、ソバ、中華めん、パスタ、 ソーメンの五種類の麺が自動的に作れる、麺打ちマシーンなんだ。材料を入れて、 スイッチを入れるだけ。しかもゴメンジャーのレッドやブルーがしゃべって操作を案内してくれるのさ。 こねて、熟成、全部が自動、最後には、ボタンを押せば、下の穴からニューッとめんが出てくるってわけさ。」
「なるほど、5つの麺でゴメンジャーってわけか。グレイトだぜ。」
「スーザン、これを見て驚くな。カモン、ゴメンジャー!」
すると5人のゴメンジャーが一人一皿料理を持って、さっと入場。
「すべて粉から作った、無添加手作りの打ちたて麺料理だ!」
するってえと、ゴメンジャーが一人ずつ、おいしそうな料理を持って、決めのポーズだ。
「もちもちの生パスタのカルボナーラ、しこしこと腰のある釜あげウドン、 細い流れるような冷やしソーメン、ソバの香りがプンプンのうちたてざるそば、 そして、きちんとちじれた中華めんで作ったチャーシューメンだ。どうだい、無添加だから体にもいいぞ。」
「オーマイゴッド!すごいわ、これが簡単に手作りできるなんて!」
「よし決めた。おれ、買うよ。」
するってえと、ゴメンジャーが料理を置き、シークレットアイテムを取り出す。
「ははは、もう決めちまっていいのかい?もちろん、スペシャルなおまけがつくよ。」
ゴメンジャーが一人ずつ、シークレットアイテムを前にだし、決めのポーズ。
「すぐ麺が打てるように麺の種類別小麦粉を二セットずつ付けるぞ。 それから、おいしい麺の作り方のDVDと100種類のメニューの載ったレシピブック、 ゴメンジャー対イタダキマスクのグルメ対戦の映画DVDもつけるぞ。そして…。」
「そして…?」
「ゴメンジャーの隊員のしるし、土下座バッヂだ。どうだい、本物の隊員と同じ、夢のアイテムだぜ。 ただし、これは実際に撮影のために用意されたものの残りなので、先着100名様のみとさせていただきます。少なくてゴメン。」
「土下座バッヂ、ほしいいい!おい、ジョージ、俺買うよ。すぐに売ってくれ。」
「ジョージ、お願いよ」
「オーケー。サイクロン掃除機、扇風機、卓上掃除機、空気清浄器、足つぼマッサージ機、 麺打ちマシーン、五種類の小麦粉2セットづつ、説明DVD、レシピブック、記念映画DVD、 土下座バッヂまで全部セットにして、送料無用、税込み価格(自信たっぷりに)89500円。すぐにお電話をお願いします。」

「これは、マニア心をくすぐるねえ。さすが燃える男、夢の翼だ。実用的だし。どうですか社長。」
「うぉほん。よかったんじゃが、品数が多すぎないか?どれを売りたいのか、どれがおまけなのか、 値段が安いのか、高いのかよくわからないなあ。そこを少し整理すれば、使えると思うがね。」
「なるほど、さすが社長。さてさて、これで今日のプレゼンはすべて終わりですが、第一回目の放送には、どれを使いましょうかね。」
「うぉほん。監督、今ヒーロー特撮シリーズは、休日の午前中にやっているんだが、なぜだかわかるかね。」
「え、そう言われてみると、日曜の朝とか、にやってますよね。なぜですか。」
「ヒーローを好きなのは男の子だが、子どもの話題に合わせようと、一緒にテレビを見てくれているのは、そのご両親だ。 その親に、アピールしたり、好印象を持ってもらえば、財布のひももゆるむというものなのだ。」
「なるほど、それで家族がそろう休日に放映してるのか。それでイケメンや荒川ゆいのような役者を使うわけだ。」
「うぉほん。ずばり、ターゲットは、男の子、ママ、パパだ。そのニーズに一番合っているのは、三人目の夢の翼君だね。
どうだい、夢のクン、その掃除機と麺打ち機で勝負に出ないか。」
「やったな、夢のクン。いやあ、商品もユニークだったが、実は、あの土下座バッヂ、あまりものだからタダだと思うけど、 ほしがる人は多いんじゃないかと思っていたんだ。きっとうまくいくぞ。」
ところが、それを聞いた社員、夢の翼は、突然おろおろして、急にあわてだします。
「え、一回目ですか…。」
そして、急にその場に土下座して、泣き出しました。
「す、すいません。許してください。」
「なんだよ、よろこぶかと思ったら、泣き出して、わけのわかんない野郎だね。」
「すいません、じつは今商品の在庫がなくなりまして、数がそろわないんです。売りに出せないんです。」
「何言ってんだか。まだ売り出す前に、売り切れたあ、どういうことだい。」
「実は土下座シールを始め、マニアに人気のアイテムなので、オレ予約するっていう仲間がたくさんいて 、予約を受けていたら、先着特典の100人を超えてしまったんです。だから、土下座バッヂはもうなくなっちゃって…。」
「ええ、あんなマニアなもの、ほしがるやつがどこにそんなにいるんだかなあ。」
監督が首をかしげると、企画会議を見ていた社員が、みんな一斉に手をあげました。
「あちゃー、そうか、この映画会社が、まるごとマニアのかたまりだったことを忘れてたよ。」
「すいません、ごめんなさい。」
「どうします、社長。」
監督があきれて言うと、社長は立ち上がって言いました。
「いやあ、これはすごい。私の負けだ。金は都合するから土下座バッヂも用意するといい。」
「はい?」
「その土下座の角度といい、いくらマニアといえどもここまで徹したらたいしたものじゃ。これもプレゼンの続きかね。」
「はいー?」
「翼君、自分の姿を鏡に映してみてみるといい。今の君こそ本当のゴメンジャーだ。」

ええ、おあとがよろしいようで。


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