ハピエコ・オリジナル小説

落語「テレビショッピング」其の二

[テレビショッピング其の一 はこちら]  [テレビショッピング其の三 はこちら]

今度は、スポンサー会社の開発担当や、映画部門のスタッフまで巻き込み、何日も何日も夜遅くまでがんばったのでした。
そしていよいよ第二回目の企画会議、ここで通れば実際に放送され、商品も売り出されるというのでみんな燃えています。

今日も社長と監督が並んでスタンバイオーケーです。

「お、一番手は男女の二人組か、さっそく三原則男先生の教えが生かされているな。」
「はい、今日はシビレピンクの女優さんをほめ役に起用し、おもちゃ会社と家電メーカーのコラボ商品を企画いたしました。」
「いや、これはいけそうだ。演出助手の田野君だったね、頼むよ。ヨーイ、スタート!」
「はーい、テレビの前のみんな、元気かな。テレビショッピングの時間です。」
「シビレピンクの荒川ゆいです。今日は素敵な商品があると言うので来ちゃいました。よろしくね。」
「今日は、女の子に大人気のエリカハウスの新作、時計台のある学校ですよ。ここだけの限定モデルとして紹介します。」
「へえー、ここだけの限定モデルなんですか。本当だ。こんな素敵なハウス、初めて見たわ。 あ、大きな黒い屋根におしゃれな時計台、すてきー。 あら、前の壁がカパッと開くと、中にエリカ先生と、動物の生徒が何匹も入ってるのね。 あ、黒板や給食台もある、かわいい、よくできてるわね。」
「かわいいでしょ。もちろん先生バージョンのエリカ人形と森の動物たちも全部セットです。」
「えー、全部ついているんですか。でも、まだ秘密がいくつもあるんですよね。」
「はい、実はこの商品、大手家電メーカーとのコラボ商品なんです。この時計台の時計、ソーラー電波で、 電池の取り換えも不要、十万年に一秒しか狂わないすごい時計なんです。」
「実用品なんですね。家族で使えますね。それから?」
「この黒い屋根、全部ソーラーパネルなんです。災害時は、日光さえあれば。 時計だけでなく、携帯の充電もできるし、ラジオも聞けるんです。」
「うわー便利、これなら遊んでいない時も役に立ちますね。それから?」
「内臓音源が100入っていて、からくり時計になるんですよ。やってみましょう。 シビレピンクの荒川さん、ここの日直の席に好きな人形を立たせてください。」
「ええ、迷っちゃうな。じゃあリスのジェニファーにしようっと。あなたが今日の日直よ。がんばってね。」
「はい、それで壁をパタンとしめて、リスの声を内蔵音源から選ぶだけです。 これで、一時間ごとに学校の窓が開いて、日直のリスさんが姿を現し、時間を教えてくれるんですよ。」
「本当ですか、見てみたいわ。」
「じゃあ、テストボタンを押してみてください。」
女優さんが、ボタンを押すと、ハウスの窓が開き、小さなライトが付き、音楽が流れ、リスの人形が姿をあらわしましてね。
「あたし、ジェニファーでちゅ、ただいま3時でえちゅ。」
「かわいい!ほかの音も聞いちゃおうっと。」
「ズルッ!おいら、タコボウ。今3時かもね。」
「うけるー。あたいウサピー。ただ今、3時ダピョン!」
「か、感激!これ欲しいわ。でも値段が高そうですね。」
「はい、この内臓音源つきソーラー電波時計、エリカハウス、ソーラーパネル、 これらを別々に買うと、30000円以上になってしまうのですが、今日は特別、 すべてセットで、もちろん人形7個、からくりメカもすべて込みで…(もったいつけて)…14800円、いかがでしょう。」
「ええー、半額以下じゃないですか。これは買うしかないわ。カラーもいろいろあるんですよね。」
「はい、お色は、アイボリーホワイトとセピアブラウンから選べます。 さらに番組終了後、30分以内に申し込まれた方は、シビレピンクの限定フィギュアをプレゼント、 ただし、お一人様3台までとさせていただきます。 3台お買い上げの方にはシビレピンクのオリジナルラブリー枕をもれなく差し上げます。今すぐ、お電話をお願いします。」
「私の枕で、いい夢見てね。じゃあ、さようなら。」

終るってえと、監督が拍手をしました。

「いや、いいねえ。値段をいうのに、もったいつけて、あれは三原則男先生が言っていた、 努力の価格ってやつだね。これならすぐ使える。荒川ゆいのお色気にパパも釘づけだ。 この商品もいけるんじゃない。どうですか社長!」
「うぉほん。いや、荒川ゆいはかわいいのう。演技も自然だったし、これならいけそうだ。 でも一つ気になったのは、お一人様3台までのところだな。このハウスを3台も買う人はいないだろう。」
「はい、リビングに1台、子供部屋に1台、寝室に1台ってのはどうでしょうか。」
「ない、ない、そこをもう一度検討してくれ。でも、なかなかよかったよ。」

初回からいい調子です。次の社員がスタンバイです。

「皆様お元気ですか。テレビショッピングの時間です。」
「お、出た、出た。女性社員の星、荒木エイ君、今度は上品でおしゃれな感じだな。よろしく頼むよ。」

「今日は、美肌でゴメン。美肌マスクビガンジャーのご紹介です。皆様も美しいお肌のためにお悩みのことと存じます。 ご家庭で気軽に使える美顔器もいろいろ出ておりますが、値段が高い、時間がかかる、 特別な化粧水などを使うのでコストがかかるなどいろいろ問題もありますね。 でも、もし、値段も安く、家事や子育てをしながら美顔ができる、使うのは水だけという美顔器があったらどうしますか。 まずは、体験した若いママに登場してもらいましょう。」
するてえと、画面が切り替わり、子育て中のヤンママがいっぱいに映る。
「こんな、商品があるなんて驚きました。お肌もしっとりして、パパも満足。 私もウフフって感じです。なにより、息子のケンタが一番喜んでますよ。」
三歳のケンタ君も出てきて、はしゃいでいまあす。
「抗菌、消臭効果のあるマイナスイオンのシャワーでイオンミストが効果的にお肌に働きかけます。 二週間使用したママさんのお肌の変化をご覧ください。」
二枚の写真が並べて出る。カサカサだったお肌がしっとり肌に大変身。
「いかがですか。このすばらしいイオンミストが、手軽な価格で手に入るチャンスです。 さあ、それでは紹介しましょう。ネットランキング10週連続第一位になるといいな、 売上堂々の10億円突破の予定、全世界80か国で爆発的売れ行きを希望、リピート率100パーセント、 ただし試したのは一人の場合、とにかく大人気ここでは!美肌でゴメン、美肌マスク、ビガンジャーの登場です。」
すると、おしゃれなお面のようなものを持ってモデルさんが入場してきます。
「私も、毎日ほかのことをやりながら使ってるんです。乾燥肌がすっかりしっとり肌になりました。」
「では、さっそく実演してもらいましょう。まず横から出ているカチューシャ部分を頭につけるようにお面をかぶります。 とても軽いのですが、マスクの中には超音波モーターとイオン発生器、バッテリー、それと一回分の水が入っています。 あとは、スイッチを押すだけ。簡単でしょう。この内側からまんべんなくイオンミストが噴出し、しっとりお肌にしてくれるのです。」
「スイッチオン。ああ気持ちいいわ、このまま好きな雑誌やテレビを見てるんですよ、いつも。」
「超軽量で、つけたまま好きなことができる美顔器!でもユニークなのはこれからです。 さあ、もしも小さなお子様が近くにやってきたら、お母様の顔にマスクがかかっていて、ご機嫌斜めになるかもしれませんね。 でも平気、フェイスマスクの上に、おもちゃメーカーとコラボした、オーバーマスクがつけられるんです。」
司会者がテーブルをさっと動かすと、そこにいくつものかわいいお面が並んでいる。
ゴメンジャーの5人のマスク、美少女仮面プリクマ、怪人やエリカの仮面もある。
「さあ、どれでもお好きな仮面をつけてみてください。」
モデルは、くま耳のプリクマの仮面を手に取って早速つけてみました。
「わあ、かわいい、。ちょっとしたコスプレみたいですね。」
「さあ、これでお子様も大喜び。もちろんお子様もかぶれます。」
すると、またヤンママの画像。パパが怪人のお面、ママが誘拐されるエリカのお面をかぶって助けてと叫ぶ。 すると、レッドのお面をつけたケンタ君がやってきてママを助ける。ギャアアア、やられた、 と倒れるパパ。お面をとると、ママのお肌はプルプルだあ! さらにヤンママのお茶会の映像。子供たちが楽しそうに遊んでいる横で、ママたちが集まっておしゃべり。 でもパッとこちらを振り向くと、全員ヒーローの仮面をかぶったまま美顔の最中だ。なかなかインパクトのある眺めだったりします。
「今日は、本体フェイスマスク、バッテリー充電器、おまけのオーバーマスク、 ゴメンジャー、プリクマ、エリカ、怪人アヤマーランのすべてのお面のセットも全部込みで、 ギリギリの価格を出します。行きます、全部セットで…(つぶやくように…)9800円…。」
それを聞いて、モデルさんが目を輝かせます。
「ええ、すごい、安いですね。全部セットでその値段?…。うれしい。」
「安くてゴメン、手軽でゴメン、美肌でゴメン、美肌マスク、美顔ジャー。今すぐお電話お願いします。」
「いやあ、これもなかなかいいねえ。つぶやくように言うのは、三原則男先生の、ギリギリノ価格ってやつだね。 荒木レイ君がささやくのはなかなかいいねえ。憎いよ。どうですか、社長。」
「よく工夫してあるが、ネットランキング10週連続第一位になるといいなとか、あのあたりは、まずいんじゃないか。」
「なにぶんにも、まだ売り出していないもんで…。」
「あと、個人的には、若いお母さんが5人でお面をつけて並んでいるのがどうも妙な感じがしたんじゃが…。 まあ、その辺も検討してみてくれ。うむ、これもなかなかよかったぞ、もうひとがんばりじゃ。」
「次、行こうか。お、今度は外人コントと料理の実演つきか。こってるね。 いいぞ。お、会社1の戦隊マニア男、夢野翼君、暴走しないように気をつけろよ。」


[テレビショッピング其の一 はこちら]  [テレビショッピング其の三 はこちら]