ハピエコ・オリジナル小説

落語「恋愛テーマパーク」其の二

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「シクシクシク…。」
「そうなの…。よく当たると思っていた占いで、そんなこと言われたの。それはショックね。 でも、しょうがないじゃない。ね、おいしいものでも食べて、元気出そうよ。」
「おいしいもので元気…。そうだ。この先のロストラバーデルタっていうところに、 恋に傷ついた乙女を癒してくれる、秘密の占いレストランがあるんだって。」
「そうなの、ちょうどいいじゃない。一緒に行きましょう。」
「うん。やっぱ、持つべきものは友ね。」

さて、川を上り、うっそうとした密林に囲まれたロストラバーデルタにやってきました。 ジャングルの中には、石像やピラミッドが立たずみ、色鮮やかな小鳥や、咲き乱れる南国の花々が目をひきます。
最初、ジャングルの中の大きなテントに入って、探検隊の入隊試験。生活や食事に関するアンケートを書いて隊長に渡し、 合格になるとみんなでジープに乗り込みます。
大きな滝の裏から洞窟を抜け、ジャガーの森を越え、水しぶきとともに湿地帯に突入です。 巨大なアナコンダ、ワニの群れ、電気うなぎ屋ピラニアの襲撃をかわし、いよいよ古代のピラミッドへ…。 仕掛けを乗り越え、地下に降りるとクリスタルの財宝が…。
「ああ、おもしろかった。なんか大自然のパワーをもらった感じね。あ、案内板よ。」

『クリスタル ケミカル 魔宮のレストラン 食生活や生活パターンから、足りない化学物質を割り出し、世界に一つ、あなただけの人生リフレッシュ料理を作る、癒しのレストラン』

「へえ、すごそうね。じゃあ、私は、あっちのジャングルレストランで待ってるからね。」
「うん、ありがとう。マイちゃん、待っててね。行ってくるわ。」
ひなのが奇怪な石像の前に進み出ると、古代マヤの神官が厳かに話し始めました。
「最近の体の具合や気分はどうですか。」
「彼とうまくいってなくて、あまり出かけることもないし、だいいち、買い物をしても虚しいし、 何を食べても味気なくておいしくないんです。なんかいらいらすることが多くて、何をしてもやる気がおきないし、 すべてを投げ出したくなることもあります。」
すると、マヤの神官は、石像の中から出てきた、ひなののデータを見ながら言葉をつづけました。
「なるほど、でもあなたの症状は、恋のせいではなさそうです。体内の化学物質のバランスの悪さが大きく影響しているようですね。」
「化学物質?」
「あなたのデータを見ると、もとから好き嫌いが激しいのに、その一方で無理なダイエットをしたり、 逆にお菓子やケーキを食べまくっているようですね。血糖値が不安定で、急性糖尿病や低血糖の可能性があります。 今日は低血糖、いらいらしてキレやすくなります。さらに慢性的なカルシウム不足で、一層気分が不安定になります。 また亜鉛不足のため、何を食べても味気なく感じます。慢性的な睡眠不足で、成長ホルモンや癒し効果のあるセレトニンの分泌不足が続き、 老化が早まっています。」
「ええ、ショック!老化って?私、おばあちゃんになっちゃうの!」
「はは、おばあさんにはなりませんよ。でも、それが肌荒れやむくみなどの原因になっています。 唯一よかったのが、あなたは大のメロン好きで、何かのたびに食べてますね。メロンやスイカには、シトルリンという物質があり、 血流を良くし、美容にも効果があるといわれています。」
「やはりそうだったのね。体がメロンを求めていたのね。」
「あと問題なのはあなたの行動パターンです。自宅と学校、お気に入りの店の三か所の中を行き来している非常に保守的なパターンですね。 新しいことに挑戦したり、新しい場所やお店の開拓もしていませんね。」
「それはそうだけれど…、いけないんですか。」
「ひきこもりがちの刺激のない生活パターンになると、喜びや快感を生む物質ドーパミンが減少し、 楽しみが減り、さらに味気ない毎日になります。しかも、好き嫌いが多いので、アミノ酸がきちんと摂れていません。 恋愛物質、胸がときめくバソプレシンや絆を強めるオキシトシンなどの物質も低下気味です。」
「ええ、その、ドーパミンとか、セレトニンとか、恋愛物質を増やすにはどうしたらいいのですか。」
「睡眠をじっくりとり、規則正しい生活を送るとともに、新しいことに挑戦しましょう。ファッションをガラッと変えたり、 旅行などもいいですよ。」
「そうか、最近旅行にも行ってないしなあ。」
「さらに、今あなたに足りない物質をふやすことのできるように、スーパー恋愛スープを調合します。」
そういって、マヤの神官は、古代の石板をデザインしたファイルを取り出しました。
失恋のやけ食いを防ぐダイエット食、恋やつれのためのスタミナ食、 美しさを取り戻す野菜たっぷり食などのデータの中から、一つを選んだのでした。
「やる気アップの恋愛食、これだ。これにいろいろな成分を加えて、あなただけのレシピを作ります。」
するとマヤの神官はサラサラとレシピを書き込んでいきました。
「カルシウムのための牛乳と、亜鉛のためのシジミエキスがベースになります。 恋愛物質を増やすにはチロシンなどのアミノ酸が必要ですから、ヨーグルト、バナナ、アボカド、ゴマ、ローヤルゼリーを加えました。 さらに、お茶のエキスを加え、テアニンをとれるようにしました。これはドーパミンのもとを作ります。 これにクリスタル・ケミカル特製の調味料を加えてと…。では、このレシピをもって、レストラン・マヤに行ってください。 これからは、いつでも食べられますよ。」
「ええ!食べたいけど、私の嫌いなものがたくさん入っているわ。どうしよう。」
ひなのは、ジャングルにたたずむ、レストラン・マヤで、オリジナルレシピを注文しました。 マイちゃんはアマゾンラタトゥーユを頼んで、二人でお食事です。
「うわー、食べたいけれど、食べたくない。いったいどんな味なのかしら。」
しかし、がまんしてスプーンですくって口に運ぶと、ほんのり甘い、コクのあるポタージュスープという感じ…。
あ、こりゃうまい。あ、全部食べちゃった。
「あーあ、おいしかった。」
「よかったわね。あれ、ひなのちゃん、さっそくスープの効果が表れてきたんじゃない?」
「あれ?そういえば…。すごい。体が熱くなって、やる気が出てきたわ。 見てみて、ほら、お肌がツルツルになってきたみたい。すごい、なんか輝いている感じ…。」
「いや…いくらなんでもそんなにすぐにそこまで効果は…。」
「やったー、ハッピーバースデーひなの。今日が私の、新しい誕生日、生まれ変わったわ。 そうだ、旅立つ乙女に人生の指針を与えてくれるところがあるんですって。マイちゃん、すぐ行きましょう。あっちよ。」
ドカドカ歩き出すひなのを追いかけながら、マイちゃんは思いました。
「もう、帰るんじゃなかったの?まだ、いくわけ…。」

二人はボカンボカンと爆発する大きな火山の裏にやってきました。そこには潜水艦の秘密基地があるのです。

『「魔界帝二万マイル;ノーテラス号」 特殊な潜水艇で人間の脳の中、意識の海の中にダイブする。 脳の男性度、女性度を精密なテストから割出し、行動の指針を示す。夢と科学のアドベンチャー。』

「うわー、シュールな秘密基地ね。どこが入り口?」
遠くからドームのように見えていたのは、人間の頭部そっくりなノーテラスの秘密基地。 その周りにも、神像やら、大脳やらに似たオブジェのような建物がいくつもならんでいます。
「まずは、ノーテラス号のクルーになるためのテストからよ。行こう、行こう。」
テストといっても、人間の脳の中を特殊潜水艇に乗って探検するビデオゲームです。 隠された大事な記憶を探し出すうちに脳の仕組みが分かるようになっています。 持ち物や仲間を決めたり、脳内地図を見て探検の場所や経路を決めたり、ストーリーが分岐・選択したりします。 楽しみながら、100項目以上に及ぶ心理テストが受けられるようになっているのです。
合格すると、ハート型の酸素ボンベをしょったノーテラスのクルーが迎えにきてくれます。
「はい、クルー専用のゴーグル、3Dメガネですよ。さあ、こちらへ。」
そこは、人間の意識の海にダイブする特殊な潜水母艦ノーテラス号です。座席の動く、3D劇場でした。
「広大なる意識の海の探査船、ノーテラス号へようこそ。」
正面に大きなスクリーンがあり、そこに艦長の姿と数人のベッドで寝ている患者が映ります。
「これから悪夢にうなされる患者の夢の中に入り、悪夢の元を探り、患者を助けます。ノーテラス、出航!」
その途端モニター画面が輝き、光の波が押し寄せました。座席が動き、本当に離陸した感じです。 押し寄せる光の海の中を突き抜けると、底は、森戸湖に囲まれたお花畑のような楽園でした。 ところが、湖の上空を飛行していると、にわかに黒雲が広がり、地響きが起こり、鳥たちが逃げ惑います。 なんと湖の中から、黒い不気味な城が浮かび上がり、その上空に、嵐が巻き起こり、光の世界を闇で覆い始めたのです。
「いくつもの夢の世界を支配する魔界帝の城だ。突っ込むぞ。」
ノーテラスが急降下すると、巨大な城門が開き、無限の闇が広がりました。
「うわあ!」
中は夜の世界。また違う患者の夢の世界のようです。サーカスの大きなテントが見えます。人々が灯りの中を行き交い、 たくさんの店が出ています。ところが悲鳴が聞こえ、見ると、赤い月の向こうから、巨大な蝙蝠(コウモリ)のような怪物が 次々と舞い降りて襲ってくるのです。
「エンジェルレーザー発射。」
ノーテラスから発射される聖なる光にあたると、黒い蝙蝠は光の粒子になって消えていきます。 一匹、また一匹と、どんどん怪物は消えていきます。
「魔界帝はあの赤い月の下だ。急ぐぞ。」
月に向かって進みだすと、急に黒い雲が沸き起こり、ノーテラスは闇の中へ…、怪物たちのうごめく魔界へ、 そして夢の世界を侵略する魔界帝との最終決戦が…。
「ああ、おもしろかった。最後、闇の世界がまた楽園に戻るところが爽快ね。」
「本当。ひなのの心の中のモヤモヤも、きれいに吹き飛んだって感じよ。」
「じゃあ、私は、外で待っているから…。」
「ラジャー、桜井ひなの、明日に向かって出航します。」



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