ハピエコ・オリジナル小説

落語「恋愛テーマパーク」其の三

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秘密基地の艦長の部屋は19世紀の貴族の部屋のようなインテリアでその中に大きな脳の模型や、羅針盤が並んでいます。 艦長がデータをもって、ひなのを迎えます。
「もともと狩猟生活を担っていた男性は、いかに他の者より近道して、しかも大きな獲物を仕留めるかが問題でした。 だから、空間的、論理的思考で、仲間と競い合い、近道をしたり、小さいものより、大きなものを選択するように脳が進化しました。 ところが子育てを担い、住居のそばでみんなと最終生活をしてきた女性は、細やかな感覚で、小さなものでも根気よく見つけ出し、 なんでも食べれるものは優劣をつけずに集めます。つまり、感覚的、並列的な思考力が進化し、仲間との協調性が大事にされたわけです。 その結果、男性的な脳と女性的な脳が生まれてきたわけです。ただし、個人差があります。」
「ええ、私の脳、どっちなんですか?」
「女性度レベル9、かなりの女性脳ですよ。すぐれた感性の持ち主で、女性本来の生命力に満ち溢れていますね。」
「よかった。男性だったらどうしようかと…。」
「では、このブレインコードというプリントに、女性度の高いあなたの特性とこれからの指針を詳しく書いてあります。 これを持ち帰って、これからの毎日を頑張ってください。グッドラック。」
艦長はプリントをくるくると巻いて、金色のリボンでとめて渡してくれました。
「ありがとうございました。ようし、がんばるぞ。」
秘密基地を抜け、海岸に出ると、海風に吹かれてマイちゃんが待っていました。
「どうだったの?」
「ふふふ、もうばっちりよ。このプリントに、光り輝く私の未来があるのよ。私って、すごく女性的な脳なんですって。読んでみて。」
「え、いいの?どれどれ…。」
喜ぶマイちゃん。でもその表情はすぐに後悔に包まれていくのでした。
「ええっと、女性脳のレベルは9。ただし、あなたの場合、女性度が高いわりに応用力や行動力がともなっていないようですね。 感覚的に思いつきで行動することが多く、天然と呼ばれたりします。」
「ええ、ショック。私、天然って呼ばれたこと、一回ぐらいしかないのに!」
「ええっと…以下のように分類されます。脳の属性;優柔不断タイプ、トラブル解決力は レベル4「キーワードはため込む」となります、だってさ。」
「えー、優柔不断タイプってどういうこと?ちょっとみせて。」
見ると、芸術家タイプ、ナデシコタイプ、感情的タイプ、ガッチリタイプ、お姫様タイプ、お局タイプ、 八方美人タイプなどいろいろな指標があるのですが、優柔不断の数値が一番高くなっています。
「やっぱおかしいよ。ナデシコタイプのまちがいじゃないのかな。それになに、トラブル解決力レベル4って低くない…?」
「ああ、解説があるわ。たくさんの問題が迫ったときに、男性は小さなことをはしょって、 重要なことだけやって終わらせる傾向があるのですが、女性は、小さなことも見捨てられず、 ついテンパってしまうことが多いのです。そんな時の解決力です。全部で十段階で、キーワードは、下から、
やりっぱなし・あとまわし・行き当たりばったり・ためこむ・おねだり・人にふる・順番に解決・得意技炸裂となり、 最後レベル9以上は、知恵袋・段取り名人となるってさ。」
「うそー、やっぱ、低すぎるよ。私、昔一度、知恵袋って呼ばれたことあるのに…。」
「…ええっと、次は、仕事とアフター5、結婚の3つの指針が載ってるけど…。どうする?もう、読むのやめる?」。
「いいのよ。覚悟はできてる。読んで、マイちゃん。読むのよ!」
「じゃあ、仕事の羅針盤からね。優柔不断で、スッパリ決断ができず、いつのまにか問題を抱え込み、 身動きがとれなくなることが多いあなた。頼まれると、いやといえない、くれるものはもらっておく。 気になるものは買っておく。でもすぐには片付けない。仕事も物もどんどんたまっていく。一見、部屋は片付いているが、 戸棚の中はぎっしり。かばんもずっしり。いつも探し物と、締め切りに追われていますね。」
「ギクッ。なんでわかるの。」
「一つめの指針、いらないものは買わない。できない仕事はひきうけない。ため込まないで、その日のうちに片付けよ。」
「あちゃー。なんで人のうちの戸棚の中までわかるのよ。ちょっと待って。」
するってえと、ひなのは、持っていたズッシリ重いバッグをひっくり返し、余分なものをゴミ箱へと捨てはじめました。 するとでてくるわ、でてくるわ、お菓子の箱やら、包み紙やら、旅行のパンフレットやら、何かの書類やら、古い、いらないものばかり、 これでもか、これでもかと…。
「よっしゃ―、これでスッパリすっきりよ。はい、次、お願い。」
「二つめは、アフター5の羅針盤です。スッパリ決断できないので、小さなことでもはしょれずに、 出がけに目につくとついついやってしまうのでなかなか家を出られない。行き先をよく確認しないで家を出ることも多く、 方角や地図は苦手なので、目的地までなかなか行きつけない。プラス、行列に並ぶのが嫌でないので、寄り道も多い。 結果として、時間に遅れがちです。」
「え、どっかで見てたの?私のこと…。」
「二つめの指針、大事なことから優先して効率よく動こう。時間を厳守せよ。」
「そこまでお見通しで…。マイちゃん、ごめんなさい。今日も遅刻して。電車が遅れたなんて嘘言って…。ええーん。」
「今の二つの指針を守り、何事もためこまず、時間を厳守すれば、きっといろいろなことがうまくいくでしょう。 もともと感性にすぐれた生命力のある人ですから、がんばってください。」
「あのうマイちゃん。もう一つだけあったわよね…。」
「はい?やっぱ、そこも、読む?」
「あの、別れようと思っている彼と、母がすすめるお見合いとどちらがいいのかな。それとも、新しい出会いを求めて旅立てとか…。」
「なんといっても、優柔不断タイプですから。決断力に乏しく、選択肢が多いと目移りしがち、未練や後悔も大きい。 小さなことでぐずぐずしているうちに婚期を逃しやすいタイプです。結論、経験ある人にまかせるのがベスト。つまり…。」
「つまり…。」
「お見合いが理想的です。」
「ええ!マイちゃん、思い出したわ。お見合いはもう不可能よ。」
「あら、どうして?」
「だって、お見合い写真、今スッパリ捨てて、ゴミ箱の中だもの…。」

おあとがよろしいようで…。


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